犬の脳腫瘍の原因、症状、治療法

犬の脳腫瘍の原因、症状、治療法

犬困る

森のいぬねこ病院グループ院長

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属

西原 克明(にしはら かつあき)先生

犬の脳腫瘍ってどんな病気ですか?

犬、質問

犬の脳腫瘍はその名の通り、脳に発生する腫瘍で、原発性脳腫瘍(脳の細胞から発生する腫瘍)と続発性脳腫瘍(脳の周辺組織から入り込んでくる腫瘍)があります。原発性脳腫瘍には、髄膜腫(ずいまくしゅ)や星状膠細胞腫(せいじょうこうさいぼうしゅ)といった、ややこしい名前の腫瘍がたくさんあり、腫瘍化した細胞の種類や、腫瘍の発生場所などによって分類されています。

近年、MRIなどの高度画像診断技術が発達することにより、脳腫瘍を診断できる機会が増えました。そしてそれに伴い、様々な治療も行えるようになっています。以前は、脳腫瘍は診断すらままならないほど、犬の獣医療では治療が難しい病気でした。もちろん今でも他の病気に比べて、難易度の高い病気なのは間違いないですが、脳腫瘍の種類によってはかなりの治療効果が見込めるもの出てきました。

ぜひこの情報が、みなさまのお役に立てば幸いです。

犬の脳腫瘍に罹りやすい犬種を教えて下さい

多い犬種

前述のとおり、犬の脳腫瘍の診断が一般的にできるようになったのは最近のため、まだまだ他の病気に比べて統計学的な傾向は不明です。

ただ犬の脳腫瘍のほとんどは高齢の犬に発生しています。さらには、ドーベルマンピンシャー、ゴールデンレトリバー、ボストンテリア、イングリッシュブルドッグは、原発性の脳腫瘍の発生が多い犬種だという報告があります。

それら以外の犬種に関しては、かかりやすいかどうかはまだわかっていないというのが現状です。実際に、獣医神経病学会では様々な犬種の脳腫瘍が報告されていて、個人的にもあまり犬種の差は感じていません。

犬の脳腫瘍の原因って何かありますか?

チェック法

原発性脳腫瘍が発生する原因はわかっていません。

しかし、脳腫瘍とは異なりますが、犬の脳の病気の一つに壊死性髄膜脳炎があり、以前、ある先生から聞いた話ですが、この病気にかかった犬のご家庭を調査したら、90%以上のご家庭が、犬の生活空間で喫煙していた、とのこと。これが犬の脳腫瘍に直接関係するわけではありませんが、一般論として、慢性的な炎症が腫瘍を引き起こすリスクを高めるということを考えると、これは私の完全な個人的な意見ですが、タバコの煙が犬の脳に負担をかけ、それが長期的に脳腫瘍のリスクになっている可能性は否定できないと考えています。

犬の脳腫瘍の症状、余命

(どのような症状がありますか?動物病院を受診するポイント)

犬の治療

脳は体の様々な機能を司っており、脳の各部位によって機能が異なっています。犬の脳腫瘍は、様々な部位で発症しますので、その部位によって様々な症状を示すようになります。

例えば、大脳と呼ばれる場所に腫瘍ができると、行動や精神的な変化、つまり寝ている時間が増えたり、夜鳴きをしたり、怒りっぽくなったりすることがあります。他にもてんかん発作、目が見えなくなる、同じ方向にぐるぐると回り続ける旋回運動、あるいは壁に頭をじっとくっつけるような仕草など、一見痴呆とも思える症状を示すこともあります。

また視床下部という場所に腫瘍が発生した場合には、体のホルモンを調整している場所でもありますので、ホルモン異常の症状が見られるようになります。代表的なものとしては、お水をたくさん飲んだり、おしっこをたくさんするようになる、左右対称での脱毛などが見られます。

他にも中脳や小脳、前庭、延髄などと呼ばれる場所で腫瘍が発生することもあり、症状も実に様々です。

さらに上記のような見た目に明らかにわかる症状としては、首をかしげるたままになる捻転斜頸、あるいは首が一方向に曲がりっぱなしになる斜頸、小刻みに震えながら動作する企図振戦、さらには呼吸が早くなったり、体の片側が麻痺を起こしたりすることもあります。

また、細かな症状としては、目に異常が出ることが多いです。例えば、瞳孔が光に反応せずに開きっぱなし、あるいは閉じっぱなしになったり、左右で瞳孔の大きさが異なっていたりすることもあります。眼振と呼ばれる症状では、眼球が左右に一定のリズムで動き続けるようになります(上下に動くこともあります)。さらには斜視と呼ばれ、眼球が外側あるいは内側に向きっぱなしになるような症状もあります。

このように、脳腫瘍は実に様々な症状がありますが、腫瘍に進行によって、同じ症状が強くなったり、あるいは他の症状が新たに見られるようになることもあります。ただし、進行の程度も脳腫瘍の種類によって数日から数ヶ月と様々ですので、注意が必要です。

また、これらの症状は、脳腫瘍だけでなく他の脳の病気でも同じように見られます。ですので、なかなか症状だけで脳腫瘍を疑うのは難しいのですが、脳腫瘍に限らず、脳の病気は手遅れになると治療が難しくなったり、後遺症が残ってしまうリスクもどんどんと高くなりますので、気になる症状が見られた時には早めに動物病院を受診するようにしましょう。

犬の脳腫瘍の余命

脳腫瘍の余命については、十分な統計的な報告が少ないため、はっきりしたことがわかりません。ただし、近年の脳腫瘍に対する診断・治療の進歩により、報告数はどんどんと増えている状況ですので、いずれは何かしらのことが言えるようになるかもしれません。

今のところは、進行の早い腫瘍であれば、余命が1ヶ月も持たないこともありますし、何かしらの治療を行うことで、数年持つケースもあるようです。しかし、脳腫瘍の治療はまだまだ研究レベルのものも多く、同じ治療によっても、各施設によって差があるようにも感じています。現状では、脳腫瘍の治療を行うことができる施設で、実際に治療を行なっている獣医師の経験が一番信頼性の高い情報かもしれません。

犬の脳腫瘍の治療法

(どのようにして治療しますか?手術、抗がん剤など)

犬の治療

現在のところ、犬の脳腫瘍の治療は、他の腫瘍と同様、外科療法、放射線療法、抗がん剤療法が中心です。ただし、犬の脳腫瘍の中には、現時点で治療が難しいものもあります。そのため、治療を行うにあたって、治療の前にできる限りの診断を行うことがとても重要です。

診断にあたっては、まずは一般的な血液検査やレントゲン検査に加え、MRIなどの画像検査、脳に流れている脳脊髄液検査などは必須になります。それらの検査の結果、外科手術や放射線療法が適応できるのかを判断し、どの治療方法が良いのかを検討します。

ただし、犬の脳腫瘍の診断及び治療を行える施設は限られていて、一般的に高度な技術と設備が必要です。そのため、多くは大学病院や高度設備を揃えた動物医療センターで診断と治療を受ける必要があります。

一方、抗がん剤療法は、残念ながら、まだまだ効果的な薬剤は開発されていません。犬の体の中でも、脳に関しては、血液脳関門と呼ばれる場所があり、そこが脳に余計な物質が侵入しないようなバリア機能を持っているため、抗がん剤が脳腫瘍まで届きづらくなっています。それもあり、犬の脳腫瘍では、なかなか有効な抗がん剤療法が確立されておらず、今も研究レベルの域を出ていません。

犬の脳腫瘍の治療例

犬の治療例

残念ながら、私自身が犬の脳腫瘍を直接治療したことはありません。ですので、治療例に関しては、これまで何度か脳腫瘍の手術や放射線療法を研修させていただいた時の経験の話になってしまいます。より詳しくは、脳腫瘍の治療を実際に行なっている施設に問い合わせるようにしてください。

まず、犬の脳腫瘍の外科手術は、高度な技術が必要なことはもちろん、一般的な手術よりも長時間に及ぶことが多いため、犬自身が手術に耐えられる体かどうかも重要になります。さらには手術後の合併症を防ぐために、24時間体制でので看護を何日も続ける必要があります。成功率は脳腫瘍の発生場所、脳腫瘍の種類、術後合併症の発症率などにより様々です。

また、放射線療法は、外科手術ほど体に負担のかかる治療ではなく、かつ物理的に圧迫が強い腫瘍の場合は、一定の割合で症状の改善が見られることが多いです。通常は、何度かに分けて放射線を照射するため、そのたびごとの通院や入院が必要になります。

さらには、放射線療法で腫瘍を完全に除去することはできませんので、いずれは再発します。とはいえ、症状が強い場合や、外科手術が困難な場合には、放射線療法が、犬の生活の質を改善してくれる可能性は高く、治療としての意義は十分にあるものと考えています。

犬の脳腫瘍 食事で注意することや予防法

(普段からどんなことに注意して飼ったらいいですか?)

ペットフード選ぶ

今のところ、犬の脳腫瘍を確実に予防する方法はありません。ですが、一般的な腫瘍では、体の細かな慢性炎症がリスクを高めると考えられています。ですので日常生活の中で、慢性炎症をなるべくコントロールすることで、脳腫瘍の発生リスクも下げることができるかもしれません。

具体的な方法はそれぞれの生活スタイルに合わせる必要がありますが、犬の心身ともにストレスの少ない生活を送ることが重要だと考えます。お散歩時間や回数、飼い主の方とのコミュニケーション時間、コミュニケーション方法、生活空間の衛生環境、良い品質の食事など、それぞれのご家庭に合わせて、より犬の負担の少ない良いスタイルを作っていただければと思います。

執筆者

西原先生

西原 克明(にしはら かつあき)先生

森のいぬねこ病院グループ院長

帯広畜産大学 獣医学科卒業

略歴

北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。

所属学会

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会

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