なかなか気が付きにくい猫の膵炎(症状、原因、治療法)【獣医師執筆】

なかなか気が付きにくい猫の膵炎(症状、原因、治療法)

猫の膵炎

森のいぬねこ病院グループ院長

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属

西原 克明(にしはら かつあき)先生

膵炎は、人間や犬では、命に関わる状態に陥ることもある非常に厄介な病気です。しかし、猫の膵炎は、その症状が人や犬と大きく異なっており、それが猫の膵炎の診断や治療を難しくしています。

そこで、今回は猫の膵炎について、今わかっていることをお伝えします。

猫の膵炎ってどんな病気?

膵炎はその名前の通り、何らかの原因で膵臓が炎症を起こしてしまう状態で、膵臓には様々な酵素が分泌されるため、その影響もあり、膵炎になると非常に複雑な病態を示すようになります。

猫の膵炎は、実は、動物病院の診療では、人や犬ほど多く診察する機会は多くありません。しかし、最近の文献では、健康な猫の45%に隠れた膵炎が認められた、という報告もあります。

人や犬の膵炎、特に急性膵炎と呼ばれる非常に強い炎症が起きる膵炎では、激しい嘔吐や腹痛など、かなり強い症状が見られます。中には膵臓からお腹の各臓器に炎症が波及してしまう腹膜炎、あるいは全身の代謝が狂ってしまう播種性血管内凝固症候群(DIC)といった命に関わる状況に陥ることもあるため、非常に厄介な病気の一つとなっています。

一方で猫の膵炎は、人や犬とは異なり、そこまで激しい症状が見られることは少なく、飼い主の方も気づきづらい病気です。そのため、筆者の経験では、実際には膵臓に炎症が起こっていても見た目には気づかないことが多く、動物病院を受診することが少ないと感じています。

また、人では、膵炎にかかるリスクとして、暴飲暴食、喫煙、メタボリックシンドロームなどが考えれていますが、猫の膵炎の場合は、ほとんどが原因不明のため、どのようなメカニズムで膵炎が生じるのか、今でもわからないことが多くあります。

見逃し注意!?猫の膵炎の症状とは

猫の膵炎の症状は、はっきりしたものがなく、「なんとなく大人しいかな」とか「なんとなく食事の食いつきが悪いな」といった一見、歳をとっただけにも見える症状だけしか見られないこともあります。また、中には人や犬と同じように、嘔吐や下痢など強い症状が見られることがあります。

もちろん重い症状が見られるときは、より積極的な検査をして、的確な治療を行う必要がありますが、軽い症状の時は、対症療法で様子を見ることも多くあります。そのため、膵炎に気づきづらく、とても見逃されやすい病気です。なかなか改善しない場合は、軽い症状であっても、手遅れにならないように、より積極的な診断を受けるようにしてください。

猫の膵炎は併発している病気が隠れていることも

膵炎の診断は、血液検査やお腹の超音波検査(エコー検査)など、いくつかの検査を組み合わせて総合的に行います。実は膵炎の診断は他の病気のように、「この検査をすればはっきりわかる」というものはなく、ほとんどの動物病院が、様々な状況証拠を総合して診断している、というの現状です。

一部の大学病院や二次診療施設では、CT検査やMRI検査、あるいは造影剤を用いた超音波検査など、より精度の高い検査を実施しているところもありますが、膵炎の検査で、これらの検査をルーチンに行うことはあまり多くありません。

犬の膵炎では、近年、犬膵特異的リパーゼという血液中の物質を測定することによって、診断精度が非常に高くなりました。猫でも、同じように猫膵特異的リパーゼという物質の測定は可能ですが、現在のところ、残念ながらまだ犬ほどの精度が得られていません。
そのため、猫の膵炎の診断はより難しく、慎重に診断を進める必要があります。

また、膵炎で注意が必要なのは、何らかの他の病気を併発していることが多いという点です。
つまり、膵炎単独の病気ではなく、他の病気が隠れている、あるいは他の病気の症状が併発していることがほとんどのため、より複雑な病態になったり、治療が難しくなったりします。そのため、膵炎の診断では、膵臓だけではなく、必ず全身状態をしっかりとチェックしていくことが重要になります。

特に猫の膵炎では、胆管肝炎と十二指腸炎が併発していることがあり、よく『三臓器炎』『三徴炎』と呼ばれたりしています。

猫の膵炎の治療はまだまだ手探りの状態

猫の膵炎の治療は、しっかりと確立されたものがなく、まだまだ研究が行われている状態です。現状では、症状や病態に対する対症療法と輸液療法、そして栄養療法が中心になっています。

症状の重い膵炎では、嘔吐や下痢による脱水が起こりますので、吐き止め薬を使用することはもちろん、点滴をしっかりと行うことが重要です。特に脱水が進み、血液循環が悪くなると、膵臓の状況もますます悪化してしまいますので、膵炎が疑われたり、あるいは膵炎と診断された場合は、しっかりと輸液療法を受けるようにしてください。

通常、膵炎は数日間は炎症状態が続きますので、ほとんどの輸液療法では、数日間の入院治療が必要になります。

その一方で、重い症状がなく、他の病気の中で膵炎が見つかったり、あるいは健康診断などで偶然、膵炎が見つかった場合は、どこまで治療をすれば良いのかははっきりとはわかっていません。

つまり、症状のない膵炎に対して、様々な治療を行っても、それが重症化を予防することに繋がるのか、あるいは延命効果があるのかなど、治療に対する効果については不明な点が多いのが現状です。

猫の膵炎の栄養療法についても、今のところ確立された方法はありません。人や犬では、脂肪分を抑えた食事が推奨されていますが、猫では、高脂肪な食事が膵炎と関係あるのかはわかっていないためです。

そのため、猫の栄養療法は、一般的には、通常の成猫用のメンテナンスフードが用いられています。

また、栄養管理においては、特に犬の急性膵炎の時には、絶食を行うことがあります(近年はこの絶食のメリットとデメリットを見直し、絶食はできるだけ短時間にすべき、とする意見もあります)。しかし、猫では強い症状がない限りは、なるべく絶食をさせず、逆にしっかりと栄養を摂取させることが重要と言われています。そのため、食欲がない猫では、鼻から食道へチューブを設置したり、あるいは食道や胃に直接チューブを設置して、人工的に食事を摂取させることも多く見られます。

猫の膵炎の治療で、さらに重要なのは、膵炎に併発してみられる他の病気をきちんと治療することです。猫の膵炎の多くは、何かしらの他の病気が併発しています。そしてそれらの病気は、膵炎とは別々に発生しているのではなく、膵炎と関係していることがほとんどですので、どちらか一方だけ治療するのではなく、膵炎と併発の病気をどちらもきちんと治療をすることが重要です。

猫の膵炎を予防するために考えていただきたいこと

今回お伝えしましたように、猫の膵炎は、発見しづらく、またしっかりとした治療方法もありません。さらには、猫の膵炎を予防する確かな方法も今のところはないのですが、本コラムの最初にお伝えした通り、一見健康に見える猫の45%に膵臓に炎症を認めているとの報告があります。そのことから、猫の多くは膵炎のリスクにさらされている状態と言えますので、やはりできる限り膵臓に負担をかけない生活をさせてあげたいところです。

ここからは、完全に筆者個人の考えになるのですが、膵炎を予防するのには、できるだけ肉食動物に近い食事をさせることが有効なのではと考えています。肉食動物が本来食べていた食事に比べて、キャットフードは、栄養バランスは良いのですが、おそらくデンプンが多く、またドライフードは消化がやや悪いため、このことが膵臓に負担をかけている可能性があります。

そのため、良質なお肉主体のウェットフードやフリーズドライ製法でできたフード、あるいは手作りフードを取り入れることによって、膵臓の負担を減らし、膵炎の予防につながることを期待しています。もちろん品質の悪いウェットフードや栄養バランスを無視した手作りフードでは、かえって猫の健康を損ねますから、それらを取り入れる場合は、必ず動物病院でも栄養指導ができるスタッフがいるところで指導を受けるようにしてください。

また、肉食動物では、タンパク質に注目しがちですが、本来タンパク質は、炭水化物や脂肪に比べて胃腸での消化が悪い栄養成分と考えられています。そのため、単にタンパク質を摂取するだけでなく、発酵サプリメントなど、消化を助けるようなものを一緒に摂ることをお勧めします。

猫の膵炎のまとめ

猫の膵炎は、人や犬と異なり、症状がわかりずらいケースも多く、また精度の高い診断方法がないのが現状です。しかし、膵炎の中には重症化したり、あるいは併発した病気によって重い状態になることもあるため注意が必要です。

治療についても、まだまだ研究中というのが現状で、対症療法が中心になります。
このように、猫の膵炎はまだまだわかっていないことも多いため、日頃の生活の中で、こまめに健康チェックを行うようにしてあげてください。

執筆者

西原先生

西原 克明(にしはら かつあき)先生

森のいぬねこ病院グループ院長

帯広畜産大学 獣医学科卒業

略歴

北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。

所属学会

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会

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