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シニア犬(老犬)を飼う時の注意点・対策(フード、サプリメント、運動)

獣医師執筆

シニア犬

森のいぬねこ病院グループ院長

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属

西原 克明(にしはら かつあき)先生

 

人間と同じように、犬も歳をとると様々な体の変化が起こり、体の機能に衰えが生じてきます。シニア犬が長く元気に暮らすためには、その体の変化に合わせた暮らしを整えることが大切になります。

 

そこで今回は、シニア犬と暮らすときの注意点や対策などについてお伝えします。

シニアになるってどういうこと?犬のシニア期っていつから?

質問

いわゆる高齢になると、体の様々な機能が低下し、さらには病気にもかかりやすくなります。そのため、シニア犬が元気で長く過ごすためには、様々な健康上の管理が必要になります。

 

また、機能低下が進むとやがて病気としての治療が必要になりますし、たとえ病気の診断がなくても、筋肉の衰えなどがある場合には、お散歩などの運動量の調節、あるいは代謝の低下に対して、ドッグフードの成分の調節などが必要になってきます。

 

ほとんどの犬では、これら機能的な衰えだけでなく、目の周りや口の周りの毛色が薄くなるなど、見た目にも変化がみられるようになります。さらには、人間と同じように『認知症(痴呆)』もみられることがあります。

 

そして、さらに高齢になると、歩くために補助が必要になったり、寝ている時間があまりに長かったり、同じ体制でずっと居続けると褥瘡(床ずれ)ができてしまったりします。いわゆる『介護』が必要な状態になります。そうなると、なかなか人間の補助なしでは生活ができなくなるため、飼い主の方やそのご家族による手厚い管理が必要になります。

 

シニア犬にみられる病気の多くは、慢性腎臓病や慢性心不全、 腫瘍(がん)などですが、これらの病気の初期にみられる症状が非常に気づきづらく、見逃してしまうこともしばしばありますので注意が必要です。

 

では、犬のシニア期は何歳くらいから始まるのでしょうか?今のところ、犬のシニア期については、明確な定義がないため、はっきりした年齢などはわかりません。

 

よくドッグフードには「◯歳以上のシニア用」などのような記載が多くみられますが、あくまで目安です。私個人の経験では、なんらかの体の衰えが見られ始めた時期をシニアとするならば、シニア期が始まる年齢は、一頭一頭全く異なると考えています。

 

つまり、7歳くらいからシニアと判断する犬もいれば、12歳くらいでもなんの衰えも感じさせない犬もいますので、年齢で区切ってしまうのではなく、その犬それぞれの状態をしっかり見てあげた上で判断することが重要だと考えています。

 

シニア犬にしてあげたいこと

飼い主

サプリメントの導入

サプリメント

シニアになると、様々な機能の衰えが見られるようになるのですが、その原因の一つが『体のサビ』です。

 

犬は運動や食事、その他生活環境など日常生活の様々なところで体に負担をかけています。それにより酸化物質と呼ばれる体のサビが発生するのですが、若い頃はこのサビを自分自身の力で分解することができます。

 

しかしシニアになると、うまく分解できなくなるため、どんどん体がさび付いてしまいます。そのため、サプリメントでこれらのサビがひどくならないようケアしてあげることをお勧めします。

 

体のサビを抑えるサプリメントは、いわゆる『抗酸化サプリメント』と呼ばれるもので、アガリクスやオメガ脂肪酸(ω3やω6脂肪酸)、アスタキサンチンなど、実に様々な種類のサプリメントがあります。

 

ただし、犬用のサプリメントは法整備もまだまだ不十分なため、その品質はピンキリと言わざるを得ず、選び方には注意が必要です。最低でも、メインとなる原材料の品質がはっきりとわかっている、余計な添加物を使用していない、学術的なデータが豊富といったポイントをクリアしているサプリメントを選んであげたいところです。

 

また、サプリメントを導入するにあたって、最低限の条件として、『良質な食事を摂取していること』も重要です。人間でも主食をファストフードやインスタントものばかりだと、たとえ良いサプリメントを摂取しても決して健康にはなれないように、犬もやはり良質なドッグフードを摂取していることが重要です。

 

お散歩や運動

運動

高齢になると、運動もあまり無理をさせないようにすることも重要ですが、その一方で必要な運動はしっかりと継続することも大切になります。

 

もちろん、シニアになり心臓や腎臓の病気になったり、関節に問題が起こると、運動が体に大きなダメージを与えますので、その場合には運動の制限は必要になります。

 

しかし、もともと筋肉には体を動かすという機能以外にも、心臓と同じように血液を循環させる役割などもあります。そのため、極端に運動量が減り、筋肉が落ちてしまうと、血液の循環も落ちてしまいます。

 

ですので、シニア期の犬ではひたすら運動制限するのではなく、できるだけ筋肉量を維持できるレベルの運動はさせてあげることが重要です。

 

また、お散歩のように、運動だけでなく、外の空気に触れさせたり、アスファルトや土、芝生など、足に様々な刺激を与えることが、シニア犬にとって良い刺激となり、心身の健康維持に役立つと考えられています。

 

そのため、運動させる場合も、室内だけでなく、お外など環境に変化をつけることも有効だと思います。ただし外出の際には、急激な温度変化が体に負担となることがありますので、特に夏場や冬場など外の温度が大きく変わるときは注意するようにしてください。

 

環境整備

シニア犬では、色々と体が衰えていきます。そうなると若い時と比べると様々な機能的な制限が出てきますので、それらに配慮した生活空間を作ってあげることが重要になります。

 

例えば、関節の動きが悪くなったシニア犬では、段差の上り下りが難しくなりますので、なるべく段差のない空間で生活させてあげることが重要です。また視力が落ちてきた犬でも、段差でつまづくこともありますし、さらにはぶつかりながら歩くようになりますので、部屋の模様替えを控えるとか、歩くスペースにはなるべく障害物になるようなものを置かないようにすることも大切です。

 

さらには筋肉が落ちた犬が寝ている時間が長くなると、褥瘡を起こしやすくなるため、なるべく体圧を分散させるようなベッドを用意してあげるなどの工夫が必要になります。

 

また、外で暮らす犬では、若い頃には平気で耐えることができていた夏の暑さや冬の寒さが、高齢になると体への大きな負担となり、場合によっては命に関わる状況になることもありますので、家の中で暮らせるようにしてあげることも必要になってきます。

 

定期的な健康診断

診察

シニア期になると、様々な病気のリスクがぐんと高くなります。しかも多くの病気は初期症状に気づきづらく、また完治が難しいため、発見が遅れると治療リスクも非常に高くなってしまいます。

 

そのため、なるべく早く病気に気づき、初期症状に見逃しがないよう、定期的な動物病院での健康診断をお勧めします。健康診断は、動物病院によって様々ですが、言葉を話さない犬は、人間よりも病気を発見することが難しいため、できるだけ様々な検査を組み合わせて行うことが重要です。

 

一昔前までは、一般身体検査と血液検査のみで健康診断を実施している動物病院が多かったですが、現在では、レントゲン検査、超音波検査、尿検査、糞便検査など、犬に負担のかからない検査もたくさんできるようになっています。これらの検査を組み合わせた方が、診断精度が高くなりますので、ぜひ総合的な健康診断を実施してあげてください。

 

健康診断の間隔ですが、今のところ獣医学的にお勧めできる数字はありません。そのため、かかりつけの獣医師と相談しながら決めるようにしてください。

 

デンタルケア

デンタルケア

現在では1歳以上の成犬のおよそ8割から9割が歯周病を持っていると言われています。しかもシニア期の犬の多くは、歯周病がかなり進行しており、全身麻酔はもちろん、抜歯を余儀無くされるような大掛かりな治療が必要なケースも多くあります。

 

犬にとって歯周病はそれだけメジャーな病気なのですが、実は歯周病は、口の中だけでなく、全身に対して悪影響を及ぼすことがわかっています。

 

つまり、シニアでよく見られる心臓病や腎臓病に歯周病が悪影響を与えている可能性が高いのです。そのため、シニア犬が長く元気に暮らすためには、歯周病のケアは必須と言えます。

 

歯周病は読んで字のごとく、「歯の周りの病気」です。つまり、歯だけケアしても歯周病は抑えられません。歯と合わせて歯周ポケット、歯肉(歯ぐき)のケアも特に重要になります。

 

しかし、ほとんどの犬では歯周ポケットのケアをおとなしくさせてはもらえません。そのため、歯周病の治療や予防には全身麻酔をかけての非常にデリケートなケアが必要になります。

 

よく無麻酔で歯石とりを行う動物病院やトリミングサロンがありますが、これらの処置はあくまで口臭を軽減したり、美容目的での処置であり、決して歯周病の治療にはならないことはしっかりとご理解していただくことが重要です。

 

またこれらの処置が、場合によっては歯周病を悪化させることもありますので、歯周病を持っている犬ではお勧めできません。

 

シニア用フードには切り替えたほうがいいの?

食事

私の動物病院に来院される方からもよく受けるご質問が、「うちの子の年齢では、シニア用フードに切り替えた方がいいですか?」というものです。

 

これは前述のとおり、シニア期に入る年齢は、犬それぞれで違いますので、一概に年齢だけで判断はできません。日常生活の変化や健康診断の結果を踏まえての判断になります。

 

また、シニア用フード自体も様々な違いがあります。特に犬において『シニア』が明確に定義されていませんので、各メーカーが独自に設計しています。

 

例えば、シニアになると代謝が落ち、太りやすくなるためカロリーを抑えたものもあれば、シニア犬に多い心臓病や腎臓病に配慮して、塩分を抑えていたり、あるいは関節に配慮して、コンドロイチンやグルコサミンなどを配合したものもあります。

 

これらは、どのシニア用フードにも入っているわけではなく、カロリーを抑えただけのものもあれば、様々なシニアケア成分を配合したものもあります。

 

よって、シニア用フードを選ぶ際には、具体的にどのように設計されているのかをきちんと確認した上で食べさせてあげることが重要です。

 

シニア犬(老犬)を飼う時の注意点・対策のまとめ

シニアになると、体のどこか一つだけ機能が低下するのではなく、あちこちに問題が起こります。それらはできるだけ早期発見、早期治療が大切ですし、また日常生活の中で、良質なサプリメントを導入したり、シニア犬に負担をかけない環境を整えるなど、早め早めの対策をとってあげることも有効です。

 

ぜひ一頭一頭、それぞれにとってより良い方法を選んであげるためにも、今回の情報をお役立ていただければと思います。

 

執筆者

西原先生

西原 克明(にしはら かつあき)先生

 

森のいぬねこ病院グループ院長

帯広畜産大学 獣医学科卒業

 

略歴

北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。

 

所属学会

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会

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著者⼀覧 Author

  • 森のいぬねこ病院グループ 院長

    西原克明先生

    獣医師

  • 増田国充先生

    増田国充先生

    獣医師

  • 大谷幸代先生

    愛玩動物飼養管理士

    青山ケンネルスクール認定A級トリマー

    メディカルトリマー

  • 山之内さゆり先生

    動物看護士・トリマー

  • 國澤莉沙先生

    愛玩動物飼養管理1級

    ホームドッグトレーナー1級

    小動物看護士他

  • 大柴淑子先生

    動物看護士(元)

    ペットアドバイザー