獣医師執筆
森のいぬねこ病院グループ院長
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属
西原 克明(にしはら かつあき)先生
猫の脂肪腫は、体内の脂肪組織に発生する腫瘍です。
脂肪組織は、皮下脂肪や内臓脂肪などがありますが、猫の脂肪腫は、それらのいずれでも見られます。
ただし、内臓脂肪の脂肪腫は見た目では気づかないですし、症状もほぼなく、健康診断などで偶然見つかることがほとんどです。
そのためここでは、猫の脂肪腫の中でも、実際の診察の中で多く遭遇する『皮下脂肪の脂肪腫』についてご説明します。
猫の脂肪腫は、手足、体幹のどこの皮下脂肪からでも発生するため、特定のできやすい場所というのはありません。
そして脂肪腫が認められる場所は、ぷくっとした皮膚のしこり(正確には皮下組織のしこり)として見られます。
脂肪腫の中身はほとんどが脂肪組織なので、しこりは柔らかく弾力があり、そして大きさは様々です。
しこりを動かすと、ほとんどの場合は筋肉にくっつかずに皮膚と一緒に動きますが、稀に筋肉の間の脂肪組織から発生した脂肪腫では、筋肉にくっついているため、外から動かそうとしても動きません。
ほとんどの猫の脂肪腫は良性の腫瘍で、数年単位で大きさが変わらないか、あるいは徐々に大きくなります。
しかし、ごく稀に悪性の脂肪肉腫を認めることがあります。また、1ヶ所だけに発生することもあれば、体のあちこちに発生することもあります。
これまでの報告の中には、猫の脂肪腫の割合は、猫の全腫瘍の約12%とするものもありますが、脂肪腫のほとんどは治療せずに経過観察をするため、報告に上がらないものも多くあると思われます。
そのため、実際の猫の脂肪腫の発生割合は、かなり多いものと思われます。
脂肪腫にかかりやすい特定の猫種というのはありません。
しかし、文献の中には、去勢済みのオスに多く発生するというものもあり、ホルモンや肥満などが関係している可能性があります。
猫の脂肪腫の原因はわかっていません。
しかしこれは個人的な考えですが、前述の通り、去勢済みのオスに多く発生することを考えると、ホルモンの異常や肥満による代謝の変化が、脂肪腫の発生に関係している可能性があります。
特に現在のキャットフードは、本来肉食である猫の食事としては、炭水化物が多く含まれています。
もちろん、現状の獣医栄養学の観点からは問題ないとされていますが、炭水化物の種類によっては、その割合が多いと、猫の脂質代謝(脂肪の代謝)に影響を与えます。
炭水化物による脂質代謝の変化は、体に目に見えないレベルの細かな炎症を引き起こし、これが腫瘍発生のリスクになると考えられています。
また、肥満も同じように体内の慢性炎症を引き起こしますので、やはり腫瘍になるリスクを高めていると考えられます。
悪性の脂肪肉腫では、ワクチン接種による影響を疑うものや、猫白血病ウイルス(FeLV)が関与しているとする文献もあります。
(どのような症状がありますか?動物病院を受診するポイント)
猫の脂肪腫のほとんどは、人の手で触れることで見つかります。
その際、基本的には猫は無症状で、猫自身が脂肪腫の部位を気にする様子も見られません。
しかし、関節付近の脂肪腫が徐々に大きくなると、関節の動きが制限されるため、歩き方に変化が見られることがあります。
また、筋肉の間に存在する脂肪腫では、脂肪腫の圧迫により痛みが生じることがあります。
さらに稀な腫瘍ではありますが、悪性の脂肪肉腫では肺や肝臓に転移することがあり、その時は咳や元気食欲の低下などを認めることがあります。
通常の良性の脂肪腫であれば、命に関わることはありませんので、猫の脂肪腫が余命に影響することはありません。
しかし、悪性の猫の脂肪肉腫では、転移を起こすこともあるため、余命に影響を与えると考えられます。
具体的な余命期間については、はっきりしたことは分かっていません。
(どのようにして治療しますか?手術、抗がん剤など)
猫の脂肪腫の治療方法は、ほぼ全て外科手術を行います。
猫の脂肪腫はほとんどが正常な組織との境界がはっきりしていますので、外科手術で容易に切除でき、また取り残すこともほとんどありません。
つまり、猫の脂肪腫は外科手術で完治できます。ですので、通常は化学療法や放射線療法を行うことはありません。
ただし、脂肪腫の中でも筋肉の間に入り込んでいるタイプは、取りきれないことがあります。
そして、脂肪腫に有効な化学療法はありませんので、再発する場合は外科手術を繰り返すことになります。
悪性の脂肪肉腫では、他の臓器に転移するケースもありますので、外科手術だけで完治する可能性が低くなります。
とはいえ、非常に珍しい悪性腫瘍のため、その他の治療方法が確立されていないのが現状です。
このように猫の脂肪腫は外科手術を行うことが一般的なのですが、その一方で、脂肪腫は基本的に良性腫瘍で、多くの場合『しこり』が見られるだけで、辛い症状や転移などはありませんので、治療せずにそのまま経過観察を続けることも多いです。
ただし、関節付近に発生した脂肪腫では、猫の動きが制限されることがありますので、そのような、生活に影響を与えるようなものであれば、積極的に治療することが多いです。
また、猫の脂肪腫は一ヶ所だけでなく、複数ヶ所に発生することも多く、せっかく外科手術で摘出しても、すぐに他の部位に新たな脂肪腫が発生することもあります。
そのため、治療にあたっては、手術部位の脂肪腫だけでなく、全体での発生や今後の発生についても十分考慮した上で実施することが重要です。
猫の脂肪腫は、まずほとんどの場合、飼い主の方が「皮膚にしこりを発見した」ということで動物病院を受診されます。
一般的に猫の脂肪腫は、その他の腫瘍と比較して、しこり自体は柔らかく、皮膚の隆起以外の見た目に変化(脱毛や湿疹、発赤など)がありません。
そのため、通常の一般診察の中で比較的容易に脂肪腫を疑うことができます。
しかし、脂肪腫以外の可能性も完全に否定できるわけではありません。
万が一脂肪腫以外の場合は、治療が遅れるとそれだけ問題になる可能性が高いため、脂肪腫を疑う場合であっても、必ずしこりの中の細胞を確認する検査を行います。
細胞の検査は『細針吸引生検』と呼ばれる方法で行います。
注射で使用される細い針をしこりに刺し、その針の中に入り込んだ細胞を採取、顕微鏡で形態チェックを行います。
もし脂肪腫以外の腫瘍細胞が認められた場合は、脂肪腫以外の腫瘍が疑われますので、治療方針を十分吟味する必要が出てきます。
細針吸引生検でも脂肪腫を疑う場合は、あとは飼い主の方と相談の上、外科切除を行うのかそのまま様子を見るのか、治療方針を決定します。
外科手術を行う場合は、切除後に念のため病理検査を行います。
病理検査によって、ほぼ間違いなく診断がつきますし、腫瘍を取りきれているかどうかの確認もできます。
また、手術をせずに経過観察する場合は、定期的にしこりの大きさを確認します。
もししこりが大きくなるような時は、機能的に問題が生じる可能性がありますし、大きくなればなるほどそれだけ手術が大変になりますので、その辺りを考慮しながら再度外科手術を行うかどうかを検討します。
私の経験上では、やはりただの脂肪腫であっても、大きくなって手術が必要になるケースもありますので、必ず定期的な動物病院でのチェックを受けていただくようにしています。
一方、悪性の脂肪肉腫は、非常に稀な腫瘍で、今まで診断・治療をした経験はありませんので、実際の治療につきましては、ここでの記載は割愛させていただきます。
(普段からどんなことに注意して飼ったらいいですか?)
猫の脂肪腫ははっきりした原因はわかっていませんので、確実な予防方法は残念ながらありません。
しかし脂肪腫に限らず、腫瘍全体に言えることとしては、体の細かな炎症を抑えることが予防につながる可能性がありますので、適切な栄養管理、抗酸化サプリメントの摂取をお勧めしています。
特に抗酸化サプリメントに関しては、様々なものがありますので、きちんと品質の良いものを選んであげることが重要です。
個人的には、有効成分の品質はもちろん、添加物など主要成分以外のものがなるべく入っていないものをお勧めしています。
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執筆者
西原 克明(にしはら かつあき)先生
森のいぬねこ病院グループ院長
帯広畜産大学 獣医学科卒業
略歴
北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。
所属学会
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会
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