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犬の秋対策(マダニ感染、アレルギー、食中毒など)

獣医師執筆

秋の犬

森のいぬねこ病院グループ院長

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属

西原 克明(にしはら かつあき)先生

 

動物にも季節によって注意する病気があり、季節ごとの対策が必要です。

ここでは秋によく見る犬の病気についてお伝えします。

 

マダニ感染

マダニ感染は全国で発生しています

マダニはかつて、西日本など日本でも暖かい地方に多く、東北や北海道では犬への感染は非常に稀だと言われていました。しかし近年は全国どこでも見かけるようになり、混合ワクチンやフィラリアと同じくらい、十分な予防対策が必要な寄生虫感染です。マダニは山や川など草木がたくさんあるところはもちろん、市街地の街路樹からも感染することがあります。

 

秋のマダニ感染は特に注意が必要です

マダニ感染は、一般的なイメージでは暑い季節、特に夏場に多く感染する病気と考えられていますが、実は、真夏よりも春から初夏、そして初秋にかけて感染が多発します。

 

特に秋に見られるマダニ感染は、マダニの中でも非常に小さな幼ダニや若ダニと呼ばれるマダニの感染が多く見られます。この幼ダニは、肉眼で見てもゴマ粒あるいはそれよりも小さな粒くらいにしか見えません。その小さな幼ダニが、犬の毛の中に入り込みますので、肉眼では発見しづらく、マダニ感染とは気づかないことも多いです。

 

多くの場合、幼ダニが感染すると、ダニには気づかず、まず犬が足を痒がったり噛んだりする仕草に気づきます。そしてさらによく見たところ、小さな粒がたくさんついていて、それが動いていることで、マダニ感染だと気づきます。

 

そのため、犬がお散歩の後で足を気にしている場合は、マダニ感染にも注意し、毛をしっかりかき分け、皮膚に付着しているマダニがいないかどうか確かめるようにしましょう。

 

マダニ感染は予防を徹底しましょう

マダニ感染に対しては、定期的な予防薬を使って予防してあげましょう。予防薬にはおやつタイプとスポットタイプ(首の後ろに薬剤を滴下するタイプ)がありますが、効果はどちらも同じですので、使いやすい方を選んであげてください。

 

ただし、予防薬で注意が必要なのは、ペットショップやホームセンターで売られているものです。これらは、動物病院で処方するような薬剤とは異なり、十分な効果が保証されているわけではありません。マダニ予防薬は必ず動物病院で処方されたものを使うようにしてください。

 

マダニから人に伝染する病気もあります

マダニの感染は、犬の皮膚にかじりついて血を吸うだけでなく、マダニを介してバベシア症など様々な病気にかかるリスクがあります。さらにマダニは、人間に感染する病気をも媒介することが知られています。人間への病気の中にはSFTS(重症熱性血小板減少症候群)のように、非常に致死率の高い病気も含まれます。そのため、犬に対する予防だけでなく、人獣共通感染症の面からもマダニの予防は非常に重要と言えます。

 

秋になって涼しくなったとしても、油断をせずにしっかりとマダニ予防は続けるようにしてください。

 

アレルギー

秋に見られるアレルギーとは?

犬のアレルギーには、大きく分けて、食べ物に関連したアレルギーと、草木やハウスダストなどの環境に関連したアレルギーがあります。食べ物に対するアレルギーは、季節を問わず、その食べ物を摂取することで発症しますが、環境に関連したアレルギーの多くは、季節によって変化します。その典型的な例が、人のスギ花粉による花粉症です。スギ花粉症は春先に症状が一気に悪化しますが、それ以外の季節はほとんど症状は見られません。それと同じように、犬のアレルギーも季節によって症状が変化し、中には秋に悪化するケースもあります。

 

アレルギーの原因物質は、犬によって様々ですし、また地域によっても変わってきます。秋に多い典型的なものとしては、ブタクサやヨモギなどがありますが、犬の場合は、大抵複数の原因物質を併せ持っているため、これら秋に見られるアレルギーも発症しやすいと考えられています。

 

アレルギー対策はいろんな方法を取り入れて!!

アレルギーの治療に関しては、完治させることが困難なため、かゆみ止めや抗ヒスタミン剤、抗生物質などのお薬を使った対症療法が中心になります。もちろん、これらのお薬は長期間投与すると副作用のリスクも高まりますので、しっかりと獣医師の指示を守って飲ませるようにしましょう。また、最近ではステロイドに変わるより安全なかゆみ止めのお薬も使用することができます。

 

アレルギーの治療は、少しでも治療のリスクを減らすため、対症療法のお薬以外にも様々な治療を組み合わせることが重要です。主にはシャンプーやスキンローションを用いたスキンケア、不飽和脂肪酸や亜鉛など皮膚の代謝に役立つ成分を取り入れたサプリメントを用います。これらは、犬の皮膚の状態や健康状態によって、シャンプーやサプリメントの種類が変わりますし、また一頭一頭でその効果に差があります。これらの治療を取り入れる際は、きちんとその効果を確認することが重要です。

 

また、アレルギーは免疫システムの異常ですので、近年では腸内細菌などが免疫と深く関わることが知られており、乳酸菌など腸内細菌を改善させるものを用いたアレルギーの研究も行われています。ぜひ免疫を整えるサプリメントも取り入れて見てください。

 

食中毒

味覚の秋と呼ばれるように、秋には様々な食べ物が出回るようになります。そんな中、「犬にも美味しいものを」ということで、秋の旬の食べ物を与える方もいらっしゃいます。しかし秋の食べ物の中には、中毒を引き起こすものもありますので注意が必要です。

 

ぶどう

ぶどうは犬に腎不全など命に関わる重度な中毒を引き起こしますので、絶対に与えないようにしましょう。中には「今まで、食べさせたことあるよ」という方もいらっしゃるかもしれませんが、今のところ、ぶどう中毒は詳細なメカニズムがわかっておらず、どれくらいの量までが大丈夫で、どれくらいの量から中毒になります、という決定的な情報はありません。インターネットの情報の中には、体重あたりの許容量の目安を掲載しているものもありますが、実際は、一頭一頭で許容量の幅がかなり大きいため、やはり犬にぶどうは食べさせるべきではありません。

 

腎不全の症状は、初期は非常に気づきづらく、元気がなくなったり、吐き気が見られたときにはかなり進行している可能性が高いです。万が一、ぶどうを食べてしまった場合は、元気な場合でも必ず動物病院に連絡をするようにしてください。

 

生の魚

秋には秋刀魚や鮭など、旬を迎える魚も多くあります。魚自体は栄養豊富で、犬にとっても適量であれば非常に良い食べ物だと言えます。しかし、生の魚にはアニサキスなどの寄生虫や新鮮でないものでは細菌感染のリスクがあります。犬に魚を与える時は、新鮮なものを十分に火を通した上で与えるようにしましょう。

 

こういった魚での食中毒のほとんどが、犬の盗み食いが原因になります。飼い主の方が犬に食べさせるときはきちんと新鮮なものを選んでいても、盗み食いの時には、加工用の魚を生のまま丸ごと食べてしまうなど、アクシデント的に発生しますので、普段から食材の管理が非常に重要になります。

 

その他

そのほかにも玉ねぎやニンニクなど、季節に関係なく中毒を引き起こす食べ物もありますので、普段から十分に注意をしましょう。また中毒にならない食材でも、貝などは、消化不良あるいは食べすぎることで中毒症状を引き起こしますし、キノコ狩りなどで大丈夫だと思っていたものが実は有毒だったりと、注意が必要なものも多くあります。

 

さらには、どんな食べ物でも『食べ過ぎ』は体に大きな負担をかけますので、必ず適量を守って与えるようにしましょう。

 

犬の秋対策のまとめ

秋を迎えると暑さも和らぎ、犬にとっては一見過ごしやすい季節に思えます。確かに熱中症のリスクは低くなりますので、日常生活は夏よりも快適に暮らせるようになります。しかし、マダニ感染のように秋になって感染リスクが高まるものや、アレルギーのように季節によって症状が変化する病気もあり、秋といっても犬の健康には注意するべき点はたくさんあります。普段からのノミ・マダニ予防や盗み食いされないように管理することはもちろん、こまめなスキンシップで皮膚や被毛の状態のチェック、さらには食欲やお水を飲む量、排泄の状態なども日々しっかりと確認するようにしてあげてください。

 

執筆者

西原先生

西原 克明(にしはら かつあき)先生

 

森のいぬねこ病院グループ院長

帯広畜産大学 獣医学科卒業

 

略歴

北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。

 

所属学会

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会

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著者⼀覧 Author

  • 森のいぬねこ病院グループ 院長

    西原克明先生

    獣医師

  • 増田国充先生

    増田国充先生

    獣医師

  • 大谷幸代先生

    愛玩動物飼養管理士

    青山ケンネルスクール認定A級トリマー

    メディカルトリマー

  • 山之内さゆり先生

    動物看護士・トリマー

  • 國澤莉沙先生

    愛玩動物飼養管理1級

    ホームドッグトレーナー1級

    小動物看護士他

  • 大柴淑子先生

    動物看護士(元)

    ペットアドバイザー