ワンちゃん・ネコちゃん相談室 Consultation room

ワンちゃん・ネコちゃん相談室

猫が怪我をした時の対処法

獣医師執筆

猫が怪我をした時の対処法

森のいぬねこ病院グループ院長

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属

西原 克明(にしはら かつあき)先生

 

室内で暮らす猫では、あまりケガをする場面は多くないかもしれません。しかし、外に出る猫や高齢の猫では、日常生活の中でも大きなケガをするリスクがあるため注意が必要です。
そこで今回は、猫のよく見るケガについてお伝えします。

ケンカ傷は気づきづらいため要注意

猫のケガで最も多いのが、ケンカによるケガです。
外に出る猫はもちろん、室内飼育でも多頭で暮らしている猫もケンカをするため、ケガのリスクがあります。

猫のケンカは、主に爪が刺さったり、噛まれることで受傷し、刺傷や咬傷ができます。
どちらも大きなケガの場合は、出血したり、ケガの周りが汚れていたりして、飼い主の方も気づくことができるのですが、中には爪の刺し傷や、キバ(犬歯)による咬み傷など、外見上はわずかな傷しか作られず、飼い主の方が気づかないケースもあります。

そのような場合、爪や歯の細菌が傷口から体内に侵入し、化膿してしまうことも多く、より大きなケガに発展してしまいます。さらに、そのような化膿は、ケガの直後には見られず数日経過してから発見されることがほとんどで、場合によっては炎症が全身に影響し、発熱や食欲元気がなくなってしまう猫もいるため注意が必要です。

したがって、もし猫のケンカに気づいた場合は、わずかな傷でも化膿することがあるため、注意深く猫の体をチェックして、傷が隠れていないか確認してください。もちろん少しでも傷を見つけた場合は、早めに動物病院を受診して、治療を受けるようにしてください。中には、多少の傷であれば様子をみてしまう方もいらっしゃるのですが、上記のとおり、猫のケンカ傷はわずかなものでも化膿してしまうことが多いため、しっかりと治療を受けることが大切です。

外に出る猫は交通事故のリスクも

また、外に出る猫の場合、非常に危険なのが交通事故です。交通事故といっても、死亡事故や骨折事故など、非常に危険なケースもあれば、擦り傷などの軽傷のケースもあります。また、中には打撲だけの場合、一見すると見た目のケガがないため、交通事故に気づかないこともあるため注意が必要です。

今の日本では、交通事故の危険性を踏まえ、どんな猫でも完全室内で飼育することが勧められています。しかし、現実的には外に出る猫はまだまだ多く、また室内で飼育していても窓を開けて出てしまう猫もいて、筆者の動物病院でも交通事故で来院するケースは続いています。

猫が外に出てしまった時、交通事故を見逃さないためにも、家に戻ってきたら、必ず猫の体をチェックしてあげてください。ケガの有無はもちろん、歯が折れたり欠けたりしていないか、口をしっかりと開けることができるか、爪が削れていないかといった点を確認し、怪しい場合は、隠れた異常がないかどうか、動物病院で精密検査を受けるようにしてください。

もちろん、交通事故を防ぐためにも、日頃から完全室内飼育を心がけてください。

室内で運動不足の猫&老齢猫は爪のお手入れを

前述のとおり、今の日本では、交通事故などのリスクを避けるためにも、猫は外に出さない完全室内飼育が推奨されています。しかし、室内飼育の場合、中には十分な運動ができない猫もいます。運動不足の猫は、肥満のリスクはもちろんですが、さらには爪が伸びすぎてしまうケースもあります。

伸びすぎた爪は巻き爪となり、肉球に刺さり、中に食い込んでしまいます。特に人間でいう手の親指にあたる部分は、爪とぎでも研げないため、他の指よりも肉球に刺さってしまうケースが多くみられます。

また、高齢の猫も、爪とぎが減ってしまうため非常に伸びやすく、肉球に刺さってしまうことが多いため、日頃からこまめに爪のチェックをしてあげることが重要です。

肉球に爪が刺さってしまうケガの場合、まずは刺さった爪を抜くための処置を行うのですが、通常の猫の爪切りでは、肉球に刺さった爪をうまく切れないことが多く、特殊な器具が必要になることもあります。また、爪が抜けた後は出血したり、後々化膿したりするケースもあるため、状況によっては洗浄したり、抗生物質を使用することもあります。

猫は皮膚の舐め壊しのリスクがあります

猫は犬に比べて毛づくろいなど、舌でお手入れをする様子が多くみられます。しかし、中には過剰に舐めすぎることで、皮膚を傷つけてしまうことがあるため注意が必要です。
一般的には、猫の舌は非常にザラザラしていて、さらに猫の皮膚は人間と比べると薄いため、過剰に舐めてしまうと簡単に傷ついてしまいます。

特に皮膚病やケンカ傷に対して舐め壊しがみられることが多く、飼い主の中には「舐めることで皮膚病や傷を治しているのでは?」と考える方もいらっしゃいますが、ほとんどの猫は、舐めることで病気やケガを悪化させてしまいますので、頻繁に舐める仕草がみられる場合は、毛や皮膚の状態をチェックしてあげてください。

猫の皮膚の舐め壊しに対しては、これ以上悪化させないように、猫の首に「エリザベスカラー」を装着することがあります。もちろん、短期間で治るような傷では、舐めさせないだけでも治療効果がみられますが、長期間の管理が必要な場合、エリザベスカラー自体が猫にとってストレスとなり、外した途端に舐め始めてしまう猫も多いため、エリザベスカラーを使用するときは、しっかりと根本的な原因を見極めて、その治療を行うことも重要です。

毛玉が増えたら、お口の問題かも!?

これはケガではないのですが、猫の中には毛玉がどんどん増えてしまうケースがあります。
もちろんペルシャやラグドールなどの長毛種はお手入れが行き届かずに毛玉になるケースはありますが、中にはいわゆる雑種猫でも毛玉が増えてしまうことがあります。もちろん毛玉を放置しすぎると、皮膚炎の原因になることがあるため、毛玉を見つけた場合は処置が必要です。

この毛玉が増えてしまう原因ですが、実は毛や皮膚の問題ではなく、歯周病など口の中に問題があることがほとんどです。つまり、口が痛かったり、口に違和感があって毛づくろいができなくなった結果、毛玉が増えてしまうのです。そのため、毛玉が増えてきた場合は、必ず口の中をチェックし、異常な口臭や歯肉炎、口内炎がないかどうかをチェックしましょう。

また、毛玉はハサミやバリカンで切り取りますが、慣れない場合は、バリカンやハサミの刃でさらにケガをさせてしまう場合がありますので、ご自宅での処置が難しい場合は、ペットサロンや動物病院に相談してみてください。

猫のケガは予防が最も重要です

このように、猫のケガには様々な原因があります。そしてそのほとんどはご家庭での対処が難しく、動物病院での治療が必要になるケースばかりです。もちろん、動物病院での治療自体、猫にとって大きな負担になりますので、なるべくケガをさせないよう、予防に努めるようにしましょう。

外に出さないようにすることはもちろん、室内でも十分な運動が確保できるように、運動スペースを作ったり、猫と十分な遊ぶ時間を持つことも有効だと思います。
また、皮膚炎やお口の異常、爪の伸び具合など、健康上の問題を早期発見できるように、日常的な体のチェックを行うことも大切です。

猫が怪我をした時の対処法まとめ

猫のケガは、猫同士のケンカのほか、交通事故や皮膚病変の舐め壊しなど様々な原因で生じます。また、ケガではありませんが、お口の異常から毛玉が増えた結果、皮膚が傷ついたりすることもあります。
猫のケガのほとんどは、しっかりとした治療が必要になるため、猫の負担を減らすためにも、日頃から飼育環境を整え、こまめに猫の体調をチェックし、ケガの防止に努めてあげてください。

 

執筆者

西原先生

西原 克明(にしはら かつあき)先生

 

森のいぬねこ病院グループ院長

帯広畜産大学 獣医学科卒業

 

略歴

北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。

 

所属学会

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会

カテゴリー Category

著者⼀覧 Author

  • 森のいぬねこ病院グループ 院長

    西原克明先生

    獣医師

  • 増田国充先生

    増田国充先生

    獣医師

  • 大谷幸代先生

    愛玩動物飼養管理士

    青山ケンネルスクール認定A級トリマー

    メディカルトリマー

  • 山之内さゆり先生

    動物看護士・トリマー

  • 國澤莉沙先生

    愛玩動物飼養管理1級

    ホームドッグトレーナー1級

    小動物看護士他

  • 大柴淑子先生

    動物看護士(元)

    ペットアドバイザー