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犬の乳腺腫瘍(症状、原因、治療)

獣医師執筆

犬困る

日本獣医がん学会所属 獣医腫瘍科Ⅱ種認定医

西調布犬猫クリニック院長 獣医師

小川圭一先生

犬の乳腺腫瘍ってどんな病気?

犬、質問

乳腺腫瘍と聞くと人でも大変恐いイメージがあり、なにかと話題に上ることが多い腫瘍ですね。犬においてもそれは同じです。雌犬に発生する腫瘍のなかで一番多いのが乳腺腫瘍なのです。乳房がだいたい8〜10個もあるので多いのも頷けます。それと見つけやすいというのもありますよね。抱き上げたり、体を洗ったりした時に「あれっ、何だこのグリグリは?」という感じで発見されます。

 

乳腺のシコリには良性と悪性があります

癌が多い犬種

さてそれだけ多く発生する乳腺のグリグリ(シコリ)はすべてが悪性かというとそうではありません。だいたい半分が悪性とされています。ドキッとしてしまいますね。当然その悪性腫瘍の中には非常に悪性度が高く早い段階でリンパ節や肺などの臓器に転移するものもあります。「えっ、今あるシコリは良性?悪性?転移するの?」と気になってしまいますね。でもそれらを見た目では区別できないんです。ただし以下の特徴がある場合には注意が必要です。大きくなるスピードが速い、形がボコボコしている、表面が自壊してジュクジュクしている、下の筋肉にガッチリくっついていて動かないなどは悪性腫瘍の可能性が高くなりますのですぐに動物病院を受診することをおすすめします。ただし上記の特徴が無いからといって悪性ではないとは絶対に思わないでくださいね。小さくても気になったら必ず獣医師の診察を受けましょう。

 

犬の乳腺腫瘍の原因は?

チェック法

次に乳腺腫瘍の原因はなんですか?と質問を受けることがあります。原因の可能性があるものはたくさんありますが、乳腺腫瘍でかなり関わりがあるとされているものに女性ホルモンがあります。ですから若い時に卵巣を切除してしまうと乳腺腫瘍を予防できるんです。初めての発情の前に手術をしてしまうとほぼ完全に予防することができます。そしてもう一つ原因としてあげられるのが遺伝的要因です。アメリカの有名な俳優が母親や親戚に乳がんを患った人が多いということで遺伝子を調べてみたところ、遺伝子に乳がんが発生しやすい変異がみつかったということで予防的に乳腺や卵巣を切除したということはご存知の方も多いと思います。今後、犬でも遺伝子変異の影響がどんどん明らかになっていくことでしょう。

 

犬の乳腺腫瘍の治療法

犬の治療

さてそんな乳腺腫瘍ですが治療に関してはどうなのでしょうか?良性腫瘍は取れば治ります。では悪性腫瘍は治療すれば治せるのか?その答えは「治せるものが圧倒的に多い」です。なんか微妙な言い回しですが、犬の悪性腫瘍のなかで完治を望める腫瘍って割と少ないのです。

 

まず第一に体の中、つまり内蔵の腫瘍はかなり進行した状態で見つかることがほとんどです。犬はなかなか症状を訴えてくれないですね。人のようになんか胃に違和感が・・・とか、なんか腰のあたりが痛む・・・とか、なんか息苦しいとかで自ら病院に行こうとはしてくれないのです。そしていざ症状が顕著に現れた時に飼い主が病院に連れて行くともう「手遅れです」ということが多いのです。その一方で乳腺は触ってわかります。見てわかります。まず発見しやすいということが治せる可能性をうんとあげてくれます。

 

そしてもう一つは腫瘍が完全にとりきれれば再発の可能性はほとんどありません。つまり腫瘍とその周りの正常組織をある程度余裕を持って切除できればいいのです。犬は4つ足で歩くので胸は常に地面を向いています。つまり大きく切除しても人ほど美観的な問題は生じません。発見しやすい、大きくとれる。この二つのことが犬の乳腺腫瘍が治る可能性をグンとあげてくれるのです。

 

乳腺のシコリに変化があったら検査を

犬 受診

しかしこのように書くと胸のシコリはなんでもやたらめったらとってしまえばいいのだと思ってしまいますがそうではないのです。シコリがあったら小さなうちは少し様子をみてもいいと思いますし、変化があれば細胞の検査(細胞の検査で良悪を判断するのは非常に難しいのですが・・・)や組織検査をしてもらうといいでしょう。それまでの変化や検査の所見で悪性が疑われるのであれば手術でしっかり取ってもらうといいでしょう。病理検査をしてもらいその後について相談していければ安心だと思います。

 

乳腺腫瘍の大きさと再発率・予後の関係

ちなみに腫瘍の大きさが3㎝超えると再発率がうんと上がりますなんてことも言われております。しかしチワワで3㎝を超えるともうお手上げになることもあります。ほ乳類の中で犬ほどの大きさに幅がある動物は珍しいとのことです。チワワの3㎝とグレートデンの3㎝はぜんぜん違います。ですから3㎝というのは忘れてその犬の大きさを考慮した上で判断しましょうね。

 

乳腺腫瘍の予防法

次に予防についてですが、若齢時の卵巣切除についてはすでにお話ししましたが、若齢時に不妊手術をしていない犬ではどうなのでしょうか。年をとってからの卵巣切除はある程度、乳腺腫瘍を予防する効果があると考えます。良性の乳腺腫瘍に関してはかなりの効果があるとされていますのでそれも一考かと思います。

 

乳腺腫瘍の予防・治療に関わる免疫力

犬の免疫力

卵巣切除以外には実証された予防法はありませんが、1つ言えることは免疫力です。カラダの中で腫瘍細胞ができると様々な免疫によって腫瘍細胞は抹殺されるようになっています。しかしこの免疫のどこかに欠陥があると腫瘍細胞はそれをくぐり抜け、少しずつ分裂を繰り返し増殖していきます。

 

人の乳がんでは1つの腫瘍細胞が癌として認識される程の大きさになるまでに5年かかるそうです。つまり5年の間、腫瘍細胞は免疫の監視をかいくぐりながら密かに仲間を増やし続け、虎視眈々と牙城を崩す機会が訪れるのを待ち、その時が来たとなると一気に増殖スピードを上げ攻勢にでるのです。

 

それに対抗するには鉄壁の免疫システムを構築していくしかないのです。そういう意味では免疫力をあげるというのは非常に重要なことなのです。ちなみに免疫力を上げておくと例え手術に挑むことになったとしても手術後の状態をいち早く元の状態に戻すこともできますし、それ以後の再発の予防としての意味も十分あると思います。

 

私たち人もそうですが常々免疫力を高めることを意識しながら生きていくと風邪やその他の感染症にもなりにくくなりますし、がんにもなりにくくなると考えます。

 

*西調布犬猫クリニック院長 獣医師 小川圭一先生に記事を作成して頂きました。

小川先生

(小川圭一先生)

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  • 森のいぬねこ病院グループ 院長

    西原克明先生

    獣医師

  • 増田国充先生

    増田国充先生

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  • 大谷幸代先生

    愛玩動物飼養管理士

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    メディカルトリマー

  • 山之内さゆり先生

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  • 國澤莉沙先生

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    小動物看護士他

  • 大柴淑子先生

    動物看護士(元)

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