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犬のがんに対する抗がん剤治療について

獣医師執筆

森のいぬねこ病院グループ院長

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属

西原 克明(にしはら かつあき)先生

犬のがんに対する抗がん剤治療について

抗がん剤治療とは

犬のがん(腫瘍)に対して薬物を用いて治療する方法を、抗がん剤療法または化学療法と言います。犬のがんには、大きく分けて良性のがんと悪性のがんがありますが、抗がん剤療法は悪性のがんに対して用いられます。

さらにその中でも、体のあちこちにがんが発生するタイプ(播種性)のがん、あるいは転移している悪性のがん、あるいは転移が疑われる悪性のがんに対して適応されます。

また、抗がん剤療法はがんの三大療法の一つと言われていますが、その他の外科療法(手術)や放射線療法と組み合わせて治療を行うこともあります。

 

抗がん剤療法は、いくつかの種類のがんに対して有効な治療方法となります。ただし、抗がん剤療法で、いわゆる『完治』することはほとんどなく、寿命を伸ばしたり、あるいは犬の生活の質(Quality of Life : QOL)を良くすることができます。

その一方で、一般的な薬よりも副作用が強く出ることも多く、さらには治療費が高額になることもあります。また、一度は抗がん剤療法が効果的だったとしても、後々になって再発するケースもあります。

 

飼い主の方の中には、このような抗がん剤療法のマイナスなイメージを強く持たれている方も多いと思います。しかし、抗がん剤療法は、がんの種類によって、あるいは飼い主の方の治療に対する考え方によっては、非常に効果の高い治療方法となります。そのため、抗がん剤療法の実施には、治療を行う獣医師やご家族と十分に相談をすることが非常に大切です。

抗がん剤が効くメカニズム

犬に限らず動物は、常に細胞分裂を繰り返しながら生きています。その細胞分裂は、体全体のバランスを保つようにコントロールされながら行われるのですが、がんになると、体のコントロールを無視して、細胞や組織が細胞分裂を繰り返すようになります。

そうして無秩序に細胞分裂を繰り返した結果、他の正常な組織や器官にまで影響を及ぼすようになり、病気としてのがんが発生することになります。

 

抗がん剤療法は、主にこの細胞分裂を止めることでがん細胞の増殖を抑え、その効果を発揮します。犬の抗がん剤療法は、通常は一定の期間(数週間から数ヶ月)行われ、複数の抗がん剤を組み合わせて投与する『多剤併用療法』が用いられます。一定の期間、抗がん剤療法を行った後は、その後休薬期間を経て、何度か同じ治療を繰り返します。

どのような癌に使用するか?

犬の抗がん剤療法は、様々ながんに対して適応されますが、最も治療効果が高いと言われているのが『犬のリンパ腫(悪性リンパ腫)』です。犬のリンパ腫は体の中のリンパ節という器官ががんに冒された病気です。

リンパ節は体のあちこちに存在し、特定のリンパ節ががん化するタイプや、体のあちこちのリンパ節ががん化するタイプがあります。

 

また、リンパ節以外の器官に存在するリンパ組織ががん化するリンパ腫もあり、一見するとリンパ腫以外の病気と間違えやすいものもあるため、リンパ腫といっても、実に様々なタイプが存在します。

さらには、リンパ組織の中には、B細胞やT細胞などいくつかの種類の免疫細胞がありますが、どの免疫細胞ががん化するかによっても、リンパ腫の分類が異なってきます。

 

このように、犬のリンパ腫には多くのタイプが存在するのですが、実はそれぞれのタイプによって、抗がん剤療法の効き具合が異なっており、どういった組み合わせの抗がん剤療法を行うのか、あるいは予想される余命がどれくらいなのかが大きく異なってきます。そのため、リンパ腫の治療にあたっては、そのタイプをしっかりと分類するための診断を実施することが重要です。

 

犬のリンパ腫のタイプ分類を行うには、がん組織に針を刺して、そこで採取されるがん細胞を顕微鏡でチェックする方法(細針吸引生検やパンチニードル生検)、がん組織の一部を切除して、組織ごと顕微鏡で検査する方法(生検:バイオプシー)、あるいは組織や血液からがん細胞の遺伝子を調べて分類する方法などがあります。

どれもリンパ腫の検査としては一長一短があり、大抵はいくつかの検査を組み合わせて行います。

 

リンパ腫以外の犬のがんとしては、犬の肥満細胞腫や骨肉腫、移行上皮癌など、様々な悪性腫瘍に対して抗がん剤療法が使用されています。大抵の場合は、外科療法や放射線療法と組み合わせて使用されます。

これは、抗がん剤療法の一般的な考えの中に「がん細胞が少ない方が、抗がん剤療法の効果が高い」というものがあり、それに基づいて、外科療法あるいは放射線療法でがんを小さくして(=がん細胞を減らす)、その上で抗がん剤療法を実施しています。

また、犬の肥満細胞腫では、近年、特定の遺伝子を持つタイプで有効性が高い抗がん剤が開発され、抗がん剤療法を行う動物病院の多くで導入されています。

良く使われる抗ガン剤は?

犬の抗がん剤療法では、実に様々な抗がん剤が使用されています。実は抗がん剤療法で使用される抗がん剤のほとんどは、人間の医療で使用されているものを犬に使用しています。

そして人のがんの問題には、特定のがんに対して抗がん剤療法がほとんど効かない、あるいは抗がん剤療法が有効ながんであっても、徐々に耐性を持つ(=抗がん剤が効かなくなる)ことがあり、それに対して、新たな抗がん剤が次々と開発されています。

 

そして獣医療でもそういった抗がん剤を犬のがんに対して使用しているため、非常に多くの抗がん剤を扱うことになります。

その中でも、犬のリンパ腫に対して多く利用されている抗がん剤は、シクロフォスファミド、ビンクリスチン、ドキソルビシン、L-アスパラギナーゼ、プレドニゾロンなどがあります。

 

通常は、これらの薬剤を組み合わせた多剤併用療法が適応されます。プレドニゾロンはいわゆるステロイド剤で、アレルギー性皮膚炎の治療などでも良く使われる薬ですが、高用量で使用することで抗がん剤療法としての効果を発揮します。

また、その他の良く使われる抗がん剤には、シスプラチン、カルボプラチン、ピンブラスチン、ミトキサントロン、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、ロムスチン(CCNU)、イマチニブ、トセラニブなどがあり、リンパ腫や肥満細胞腫、骨肉腫を始め、血管肉腫、悪性黒色腫、扁平上皮癌など、様々ながんに対して使用されます。

特にイマチニブ、トセラニブは、分子標的薬といって、犬の肥満細胞腫でもc-kit遺伝子という遺伝子が発現しているものに対して、有効性が高く、近年多く用いられるようになっています。

どのような副作用があるか?

犬の抗がん剤療法は、がん細胞の細胞分裂を止めて、がん細胞を破壊することでその効果を発揮します。しかし、ほとんどの抗がん剤は、がん細胞だけでなく、正常な組織の細胞分裂にも作用してしまいます。

そのため、抗がん剤によって正常な組織も破壊され、様々な副作用が見られるようになります。特に正常な組織でも細胞分裂が盛んな場所、骨髄(赤血球や白血球など血液の細胞をつくている)、皮膚、胃や腸といった消化管粘膜などが大きなダメージを受けます。

 

また、特定の抗がん剤によっては、心臓の筋肉(心筋)、膵臓、肝臓、肺、膀胱、神経などで副作用が見られることがあります。骨髄が抗がん剤によって細胞分裂の傷害を受けると、赤血球や白血球、血小板が作られなくなり、それによる副作用を骨髄抑制と言います。

骨髄抑制が起こると赤血球が作られなくなることで貧血が、また白血球が作られなくなることで、免疫力が低下して感染症などの副作用が起こりやすくなります。

 

消化管粘膜がダメージを受けると、嘔吐、下痢、食欲不振などの副作用が見られるようになります。さらには皮膚では脱毛が見られます。また、副作用とは異なりますが、犬が抗がん剤療法を行なっている間、飼い主の方が注意が必要なのは、抗がん剤を飲み薬として与える時と、抗がん剤療法を行なっているときの犬の排泄物の処理です。

抗がん剤は犬だけでなく人にもその効果を発揮します。そのため、ご自宅で飲み薬を与えるときに、素手で抗がん剤に触ると、飼い主の方にも抗がん剤が影響することがあります。

また、抗がん剤は、犬の体の中で代謝されて、尿や便から排泄されますが、これら排泄物の中でも抗がん剤が残っている可能性があるため、飼い主の方が処理するときには、やはり直接触れないようにする必要があります。

副作用を抑えるために

犬の抗がん剤療法において、副作用はある意味では仕方がない面があります。中には、大きな副作用もなく抗がん剤療法の効果が発揮されるケースも多くありますが、抗がん剤のメカニズム的には、がん細胞の細胞分裂を止めることが重要で、そうするとどうしても正常な細胞の分裂も止めてしまうため、副作用が出てしまいます。

しかし、近年ではその抗がん剤の副作用を抑えるための様々な工夫がなされてきています。中でも筆者は、メトロノーム療法と代替療法に注目しています。

メトロノーム療法とは、従来の抗がん剤療法よりも抗がん剤の投与量を減らすことで、副作用も軽減することができる治療方法です。

 

もちろん、投与量を減らすとがん細胞に直接作用する力も減ってしまうのですが、メトロノーム療法では、直接がん細胞を攻撃するのではなく、がん細胞に栄養を送る血管を攻撃することで、がん組織の増殖を抑えようとする治療方法です(よくがん細胞を”兵糧攻めにする”と表現されます)。

そのため、がん組織自体はあまり小さくなりませんが、逆に大きくもなりづらいため、結果として、抗がん剤の副作用を抑えながら延命効果を得ることができます。

 

また、代替療法は、免疫細胞を活性化してがんの増殖を抑える免疫療法、抗腫瘍効果が期待できるサプリメントの投与、水素療法、温熱療法など、様々な治療方法があります。もちろんこれらの治療方法のほとんどは、まだまだ犬のがんに対して確立されたものではありません。

しかし、代替療法の中には、がんに対して積極的に研究を行い、その結果が徐々に出ているものもあります。その中でも筆者も経験的にその効果を実感しているのが、『抗がん剤療法との併用』です。

抗がん剤療法と代替療法を併用することで、抗がん剤療法の効果を維持しながら、その副作用を軽減できるケースがあります。そのため、筆者が抗がん剤療法を行うときは、ほとんどのケースで代替療法を併用しています。

ただし、免疫療法は実施できる施設が限られています。そのため、筆者はサプリメントを併用することがほとんどです。

 

中でも、犬の免疫力を活性化が期待できるサプリメントは、抗がん剤療法との併用に役立っていると感じています。ただし、犬のサプリメントは、品質に大きなばらつきがあるのが現状のため、その選び方には十分な注意が必要です。

筆者がサプリメントを選ぶときには、添加物が限りなく少ないもの、学術的な研究が行われていて医学論文などが発表されているもの、製造販売会社の対応に信頼が持てること、こういった点を重視しています。

中でもキングアガリクス は、これらの基準をしっかりと満たしていますし、実際に筆者の動物病院でも数多く使用させていただいていますので、強くお勧めできるサプリメントです。

犬のがんに対する抗がん剤治療についてまとめ

犬の抗がん剤療法は、リンパ腫などで適応している治療方法で、特にリンパ腫では非常に有効な治療方法ですが、その有効性と同時に副作用などのデメリットも大きい治療方法です。

そのため、より犬の負担を少なくして治療するために、獣医師と十分に相談し、がんの詳しい診断や抗がん剤の選び方、抗がん剤以外の治療の組み合わせ方などをしっかりと検討することが重要です。

執筆者

西原先生

西原 克明(にしはら かつあき)先生

 

森のいぬねこ病院グループ院長

帯広畜産大学 獣医学科卒業

 

略歴

北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。

 

所属学会

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会

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著者⼀覧 Author

  • 森のいぬねこ病院グループ 院長

    西原克明先生

    獣医師

  • 増田国充先生

    増田国充先生

    獣医師

  • 大谷幸代先生

    愛玩動物飼養管理士

    青山ケンネルスクール認定A級トリマー

    メディカルトリマー

  • 山之内さゆり先生

    動物看護士・トリマー

  • 國澤莉沙先生

    愛玩動物飼養管理1級

    ホームドッグトレーナー1級

    小動物看護士他

  • 大柴淑子先生

    動物看護士(元)

    ペットアドバイザー