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犬の免疫力について

獣医師執筆

犬の免疫力について

 

森のいぬねこ病院グループ院長

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属

西原 克明(にしはら かつあき)先生

はじめに

「免疫」ってどのようなイメージがありますか?あるいは「免疫力がある」とはどのような状態なのでしょうか?

昨今、免疫力アップという言葉がいろんな場面で使われるようになっているのですが、その具体的なメカニズムや現在の免疫の問題点について、実はしっかりと理解できている方は多くはありません。

ほとんどの方はなんとなくイメージしているにすぎないのです。とはいえ、犬や人間を含めた動物にとって、免疫力が大切なのは間違いありません。そこで今回は犬の免疫力についてお伝えします。

免疫力とは

まず、免疫力というのはその字の如く、疫(=病気)を免れる力、つまり病気にならないようにする体の仕組み、あるいは病気と戦うための体の仕組みと言えます。

特に免疫力について考える際の病気は、主に感染症、細菌やウイルスといった微生物の感染がターゲットになります。

一言で表すと、免疫力とは、細菌やウイルスと戦うための体の仕組み、と言えます。
では、犬の体はどうやって微生物と戦っているのでしょうか。

これは大変複雑なメカニズムなので、正確にお伝えするとなると、辞典なみの情報量になります(実際に免疫学の教科書は辞典のようです)。

そこで、ざっくりと3つにプロセスに分けて簡単にお伝えします。

1. 体に侵入した微生物を発見する
2. 微生物を攻撃する
3. 攻撃した後の片づけをする

1. 体に侵入した微生物を発見する

病気を引き起こす細菌やウイルスは、様々な方法で体内に侵入してきます。

鼻や口といった呼吸器から侵入するもの、傷口など体のバリア機能が壊れたところから侵入するもの、あるいは口から侵入して感染を引き起こすものなどがあります。

いずれにしても、そういった経路から侵入した微生物は、その場に留まって増殖したり、血液やリンパにのって全身へ広がるようになります。

そういった微生物に対して、犬の体は、まずは白血球の一種である抗原提示細胞という細胞が反応します。

抗原提示細胞には、樹状細胞や単球、B細胞性リンパ球など様々な種類があるのですが、いずれも微生物が侵入したことを知らせるシグナルを発信します。

白血球自体は血液の中に存在する細胞なので、常に全身をパトロールしています。そのため、微生物が体内に侵入した時は、速やかに発見してシグナルを発することができます。

2. 微生物を攻撃する

抗原提示細胞によって、微生物の侵入が発見されると、リンパ球や抗体など様々なシステムによって微生物を攻撃します。

この時に起こる反応が炎症反応です。炎症はイメージ的にはあまり良いものではないかもしれませんが、れっきとした体の正常な免疫反応、微生物と戦っている証拠なのです。

しかし、この炎症が体の許容範囲を超えたりすると、いろいろな問題を引き起こしてしまいますので、その場合は注意が必要になります。

また、抗体というのは、リンパ球から作られる武器のようなもので、効率的に微生物を攻撃することができます。この抗体は、微生物の種類によってオリジナルに作られるため非常に強力な武器となります。

しかし、初めて遭遇する微生物に対しては、抗体を作るまでに少し時間がかかるため、その間に微生物が力を発揮してしまうことがあります。その一方で、一度でも侵入したことがある微生物に対しては、リンパ球が以前の侵入を記憶していて、2回目以降で侵入した時には、非常に速やかに抗体を作ることができます。

そのため、一般的には一度感染した微生物に対しては、2回目以降で感染しても重症化しづらくなります。ちなみに、この原理を応用したものがワクチンです。

3. 攻撃した後の片付けをする

炎症によって微生物を攻撃すると、その反応によって膿が作られます。膿は微生物(特に細菌)や白血球、抗体などの炎症反応の残骸なのですが、そのまま体内に残るとやはり問題となるため、膿となって体外に排出されます。

膿は体の外に出てしまえば、そのまま問題なく免疫反応も終了します。しかし膿が体の中に止まってしまったり、炎症が治らずに膿が作られ続けると、体にとっては大きな負担となります。

また、医療の面からは、膿に存在する細菌の種類を特定することで、有効な抗生物質を選ぶことができ、有用な検査材料になっています。

犬の免疫力が低下する時

このように、犬の体は微生物が侵入した際には、免疫反応によって体を守るようになっていますが、その仕組みは複雑で、それによって何重もの対策をすることができ、しっかり防御することができます。

しかし、体の状態によっては、うまく免疫が機能せずに微生物の感染に負けてしまい、場合によっては命を落としてしまうこともあります。
特に免疫反応が低下してしまう状態のことを「免疫力が下がっている」と表現します。

 

免疫力が下がるのは、主に衰弱している時や体力を消耗してしまった時です。私たち人間も、仕事で徹夜をしたり、あるいは運動で体力を消耗した後は、風邪(=総合感冒といういろんな微生物の感染症)をひきやすい傾向がありますが、やはり犬も同じだと考えられています。

また、特殊なケースでは、生後2ヶ月を過ぎた子犬も免疫力が下がっています。子犬の時は、自分の免疫力が低い状態なのですが、生まれてからしばらくは、お母さんから抗体を受け継いでいるため、それによって感染症から身を守ることができます(全ての感染症を防げるわけではありません)。

しかし、生後2ヶ月前後になると、そのお母さんからの抗体も無くなってしまい、自分の免疫力もまだ十分に上がっていない状態のため、様々な感染症のリスクがあるのです。ちなみに、この時期に何回かに分けて混合ワクチンを接種する理由の一つが、このお母さんからの抗体の影響です。

 

また、実はお薬の影響によっても免疫力が低下してしまう場合があります。それがステロイドと免疫抑制剤によるものです。
ステロイドは、元々は体の中で作られるホルモンの一種なので、本来は体にとって非常に重要な役割があるのですが、お薬として摂取すると様々な効果を発揮します。

そのうちの一つが炎症を抑える効果です。炎症は前述のようにもともとは体を守るための正常な反応なのですが、病気によってはその炎症反応が体の治癒の妨げになることがあります。そのためステロイドによって炎症を抑え、治癒を促進することができます。

しかし、ステロイドが過剰に摂取されると免疫反応そのものを止めてしまいます。そうすると本来の必要な免疫反応すら止めてしまうため、免疫力が低下した状態になってしまいます。

また、免疫抑制剤はその名の通り、免疫反応を抑制するお薬です。免疫抑制剤は多くの種類がありますが、免疫反応のどの部分を抑制するのかによって使い分けられています。

もともと免疫抑制剤は人間の医療の臓器移植で多く使われています。臓器移植では他人の臓器を移植するため、正常な免疫反応は他人の臓器を侵入者と見なし、攻撃してしまいます。それを免疫抑制剤によって免疫反応を抑え、他人の臓器を自分の臓器として機能させることができます。

獣医療では臓器移植はまだまだ一般的ではなく、ほとんど実施されることはありませんが、免疫抑制剤自体は、犬の免疫疾患の治療に用いられています。この薬によって免疫力が低下してしまい、感染が引き起こされるケースは、獣医療ではほとんど見かけませんが、やはり注意が必要な薬であることに間違いはありません。

犬の免疫力が異常となる病気

一方、免疫力の低下以外にも免疫の異常が見られる病気があります。それが免疫疾患と呼ばれるもので、アレルギーやアトピー、あるいはリウマチなどの自己免疫性疾患があります。

アレルギーやアトピーは、花粉症や食物アレルギーなどが有名ですが、主に外部から入ってきたタンパク質に対して、過剰に反応してしまう病気です。

例えば、健康な犬では、牛肉を食べても見た目には何も起こりません。しかし、牛肉アレルギーを持つ犬では、口から入ってきた牛肉に対して、異常に免疫が反応してしまい、結果として体中に過剰な炎症反応が起き、体の痒みや下痢などの症状が見られるようになります。

また、自己免疫性疾患は、自分で自分の組織を攻撃してしまう病気です。例えば、免疫介在性溶血性貧血と呼ばれる貧血の病気では、自分の免疫細胞が自分の赤血球を攻撃して壊してしまいます。その結果、血液中の赤血球が壊れてしまい貧血が引き起こされてしまいます。

このように、免疫性疾患は、免疫力が低下するのではなく、逆に免疫反応が過剰になってしまう病気と言えます。

犬では、このような免疫力の低下や免疫の異常による病気によって、健康が害されることがあります。またほとんどの免疫疾患はその発生原因がわかっていません。そのため、こういった病気から犬を守るためには、普段から免疫力をしっかりと調えることが重要です。

一般的には、犬の体にある免疫細胞の70~80%が腸に存在すると言われています。また腸内細菌と呼ばれる腸の中に存在する細菌は、それら免疫細胞に大きな影響を与えることがわかっています。

つまり、腸内細菌を調えることが免疫力を調えることにつながります。そのため、普段から犬の腸内細菌をケアすることは、犬の免疫力を保つことに非常に有効な方法だと考えられます。

腸内細菌をケアする方法は、乳酸菌のようないわゆる善玉菌を与える方法や、オリゴ糖など腸内細菌のエサとなるものを与える方法があります。しかし現在では様々な種類の細菌製剤やオリゴ糖があり、実はその種類によって犬の腸内細菌に与える効果が異なることがわかっています。

しかし、はっきりした学術的な検証をしているものはあまり多くはありません。さらには、残念ながら犬の免疫力を調える効果がほとんど見られないようなものも製品として販売されています。

その一方で、アガリクスのように「免疫力を高める食材」として有名なものも、そのメカニズムの一つとして、腸内細菌に影響を与えることで免疫力向上させることがわかっています。

その中でもキングアガリクスは、とても豊富な学術情報によって、犬の免疫力に与える影響も検証されています。実際に筆者の動物病院でも取り入れており、感染症やアレルギーなどの免疫疾患、さらにはガンといった腫瘍性疾患の治療の一環として取り入れており、一定の効果をあげています。

犬の免疫力について・まとめ

犬の免疫力は、健康を維持するために欠かせないものですが、時として病気を引き起こす原因にもなってしまいます。そのため、日頃から免疫力をケアする生活を心がけることが大切です。

 

執筆者

西原先生

西原 克明(にしはら かつあき)先生

 

森のいぬねこ病院グループ院長

帯広畜産大学 獣医学科卒業

 

略歴

北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。

 

所属学会

日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会

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著者⼀覧 Author

  • 森のいぬねこ病院グループ 院長

    西原克明先生

    獣医師

  • 増田国充先生

    増田国充先生

    獣医師

  • 大谷幸代先生

    愛玩動物飼養管理士

    青山ケンネルスクール認定A級トリマー

    メディカルトリマー

  • 山之内さゆり先生

    動物看護士・トリマー

  • 國澤莉沙先生

    愛玩動物飼養管理1級

    ホームドッグトレーナー1級

    小動物看護士他

  • 大柴淑子先生

    動物看護士(元)

    ペットアドバイザー