獣医師執筆
森のいぬねこ病院グループ院長
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会所属
西原 克明(にしはら かつあき)先生
動物は、実はさまざまな細菌と共生しています。「細菌」と聞くと、不潔な環境で増殖する汚いもの、とか病気の原因になる危険なもの、というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
しかしその一方で、納豆やキムチといった「発酵食品」は、細菌などの微生物の力で作られていて、細菌には食べ物を美味しくするような、人にとって役立つ力もあります。
そんな細菌ですが、特に動物の腸に存在している細菌は、一般的に「腸内細菌」と呼ばれていて、人の研究では健康と密接に関わっていることが知られています。
そこで今回は、ワンちゃんの腸内細菌についてお伝えします。
実は人の腸内細菌の研究は、近年大規模に行われていて日進月歩で発展しているのですが、ペットの腸内細菌の研究はまだまだ進んでいないのが現状です。
そのため、どんな種類の細菌がどれくらい存在するのか、どの細菌が良い細菌(いわゆる善玉菌)で、どの細菌が動物の体に悪さをするのか(悪玉菌)というのも、そこまではっきりしているわけではありません(もちろん、膨大な数と種類が存在しているのは間違いありません)。
また最近では、同じ細菌でも他の細菌とのバランスによって、善玉菌になったり悪玉菌、あるいはなんの影響も与えない日和見菌(ひよりみきん)になったりすることがわかっています。
日本では、いくつかの研究施設でしっかりとした研究が行われていて、私自身も以前、共同研究に携わらせていただいたことがあります。
その中で、『動物種によって腸内細菌の種類が大きく異なる』ことはわかっています。また、統計学的には、「痩せている動物によく見られる腸内細菌」や「肥満の動物に多い腸内細菌の種類」など、いくつかの傾向があることがわかってきています。
「腸は第二の脳」とも呼ばれていて、腸の機能が体全体に影響を与えていることがわかっています。
特にいわゆる「免疫力」と呼ばれる機能には特に密接に関係していて、人間では、体の免疫に関係する細胞の約70%から80%が腸に存在し、その免疫細胞の調節に腸内細菌が大きく関わっていていることが知られています。
また、腸内細菌と病気の関係もたくさん研究されています。直接的に腸内細菌の異常によって、腸自体が傷ついてお腹を壊したり、体調不良を引き起こすことはもちろん、実は一見すると腸とは関係のないように見える病気についてもその関係性が注目されています。
人間の病気では、潰瘍性大腸炎やクローン病といった腸に病変が見られる病気のほか、肥満や動脈硬化、アレルギー、糖尿病、がん、リウマチ、発達障害などの病気と腸内細菌の関係性が盛んに研究されています。
一方、犬の場合は、まだ明らかに腸内細菌と病気との因果関係を証明した研究報告はほとんどありませんが、ただ腸内細菌と病気との関係性を示唆する報告はたくさんありますので、おそらく人間と同じように、腸内細菌が病気に影響を与えている可能性は十分に考えられます。
これら、病気と腸内細菌について考えるとき、病気が先か、腸内細菌の異常が先か、つまり「病気のせいで腸内細菌がおかしくなったのか」あるいは「腸内細菌がおかしくなった結果、病気が発症しているのか」が注目されますが、「腸内細菌の異常が病気を引き起こしている」とする研究結果もあるため、やはり腸内細菌を良好に保つことは、健康や病気予防について重要なのは間違いなさそうです。
腸内細菌に大きな影響を与えるのは、もちろん「食事」です。人の研究ですが、納豆やヨーグルトなどの発酵食品には腸内細菌を良好に保つ作用があり、野菜など食物繊維が豊富な食べ物も良い影響を与えることがわかっています(研究じゃなくても、実感としてはあなたにもご理解いただけると思います)。
その一方で乳化剤などの添加物も腸内細菌に影響を与えることが知られており、特に加工食品については、いくら良い栄養成分が入っていても、添加物の影響がどのように腸内細菌を変化させているのか不明なため、注意が必要です。
ちなみに犬の場合は、現在の日本の犬の主食のほとんどはドッグフード、つまり加工食品になります。そのため、ドッグフードに含まれるさまざまな成分が、良くも悪くも腸内細菌に影響を与えていることは間違いなさそうです。
最近はオリゴ糖や食物繊維など、腸内細菌のケアを目的とした栄養成分が含まれているドッグフードも増えていますが、実はそれらが実際にどれくらい犬の腸内細菌へ良い影響を与えるのかは、はっきりとはわかっていません。
私自身の経験では、それらのドッグフードを食べていてもお腹の調子がイマイチで、とても腸内細菌が改善しているとは思えないケースもあります。
したがって、ドッグフードの場合は、腸内細菌をケアする成分が含まれているからといって、必ずしも有効に働いているかどうかは注意が必要です。
近年、日本でも犬の腸内細菌を調べる研究が盛んに行われています。そのため、実際にあなたの犬の腸内細菌の状況を調べることは可能です。
しかし、私自身も腸内細菌の解析研究に携わったことがあり、その経験からは、一頭一頭の腸内細菌の状態はかなりバラツキがあります。つまり、「あなたの犬のベストな腸内細菌はこんな感じ」といったことを明確にすることはできません。
したがって、あなたのワンちゃんが現在食べているドッグフードが体にあっているかどうかを、実際の腸内細菌解析だけで把握するのはまだ難しく、あくまでその他の体の状態と合わせて判断する必要があります。
また、腸内細菌は食べ物の他にも、運動や睡眠、ストレスなどにも影響されることがわかっています。つまり、ほぼ生活全般が腸内細菌と関わっているのです。ただ、これらも人の研究がほとんどで、犬での研究データはほとんどありません。
ただ、人と犬との腸内細菌は似ているところも多いので、やはり犬でもより健康的な生活が、腸内細菌のケアに役立つ可能性は十分あると思われます。
上記のとおり、犬と腸内細菌の研究は、まだまだわかっていないことがたくさんあります。ただ、その中でも貴重な学術報告はあり、そういったものを活用して、ワンちゃんに「腸活」を取り入れることは、非常に大切だと思います。
一般的には、乳酸菌やビフィズス菌などのいわゆる「善玉菌」と呼ばれるものを摂取する方法、あるいはオリゴ糖や食物繊維などもともと腸内にいる善玉菌を整える方法、あるいはその両方を取り入れる方法などがあります。
さらに最近では、善玉菌の有用な成分を抽出して、それを与える方法もあります。これらはそれぞれ、プロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクス、バイオジェニクスと呼ばれていますが、どれが良いかは、個人的にはワンちゃんそれぞれだと感じています。
なので、実際に使用してみて、ウンチの性状や毛並み、皮膚の状態などをチェックしながら判断してみてください。
犬の腸内細菌の影響は、まだまだわかっていないことがたくさんあります。しかし、腸内細菌が犬の健康に関係していることは間違いありません。その中で、犬の腸内細菌をケアする製品はたくさんありますが、より良いものを取り入れて、犬の腸活をしっかりと続けてあげてください。
執筆者
西原 克明(にしはら かつあき)先生
森のいぬねこ病院グループ院長
帯広畜産大学 獣医学科卒業
略歴
北海道、宮城、神奈川など様々な動物病院の勤務、大学での研修医を経て、2013年に森のいぬねこ病院を開院。現在は2病院の院長を務める。大学卒業以来、犬猫の獣医師一筋。
所属学会
日本獣医学会、動物臨床医学会、獣医がん学会、獣医麻酔外科学会、獣医神経病学会、獣医再生医療学会、ペット栄養学会、日本腸内細菌学会
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